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2009.10.16 Friday
なんか予告編みたいになった。
病んでます。
病んでます。
人はみんな神の子だから。
そう彼に告げた少女は喪われた歌を歌う。
それは正気を喪った少女達への鎮魂歌。
禁じられた過去のメロディー。
トロイメライ
糸色先生。
彼の後ろから彼を呼ぶ静かな甘ったるい声がした。糸色望はその声に身震いする。
振り向くまいと彼は固く思ったが、その意思を「甘ったるい声」は女性特有の敏感さで感じ取り、更に誘惑するかのように艶かしく呼んだ。かれは、溜息をつく。これは日常茶飯事のことで、彼はこうやって「声」が彼を発狂したくなるまで困らせることを良く良く良く知っていた。
だから、糸色望は声のするほうへ振り向く。
先生。よかった。気付いていらしたんですね。
声の主はまだ女性として成熟していない顔つきをしていた。長い髪を丁寧に梳かしつけ、可愛らしいワンピースをみにまとい、彼に笑顔を向けている。
糸色望はいつもと同じように怖いと思った。彼女の様子はとても可憐な女子学生の姿そのものだというのに、彼女の声は警戒心を煽るほどに恐怖を感じさせるほどに妖艶すぎた。
先生。ねえ。宇宙の真理を知りたくはありませんか?
私は、夢で見たんです、とキメ細やかな白い肌を連想させる声は続ける。彼は耳を閉ざそうとする。真理など知りたくない。ましてや、自分が生きていても仕方のないこの宇宙のことなど、嘘のひとつだって必要じゃない。
だが、耳を塞ぐと容赦なく別の少女の声が耳に響く。
先程の声とは違って、その少女の声は下腹部から聴こえてくる気がした。
ある神は言いました。
真実が先生のことを助けるだろうと。
先生はそれを嘘だと仰るんですね。素敵です。素晴らしいです。私、あの神には飽々していましたから。新しい神様を私達は大切にしましょうね。
ほら、お腹を優しく触って下さい。鼓動が伝わるでしょう?この子が私と先生の
違う!!
糸色望は絶叫する。
両手を乱暴に振り回し、あらん限りの力で走る。
怖い、怖い、怖い。
トロイメライが静かに流れる中、ただ糸色望は喚きながら走り抜ける。トロイメライが聴こえない、どこか遠くへ。自分の教え子が解明してしまった歌を否定するために、どこか遠くへ。
糸色コードが解明したトロイメライは哀しい物語を記録していた。
決して忘れないように歌にした。それは希望を繋ぐためだった。
決して分からないように暗号にした。それは絶望を繋ぐためだった。
出逢ってはいけない者たちが出会い、そして、新しい真実が花開いてしまったから、悲劇はまた繰り返される。
人はみんな神の子だから。
少女は喪われた歌を歌う。
人はみんな神の子。
狂気に見出された死神の子供。
彼は走る。どこまでも。走らなくてはいけないから走ろうとする。走る足を止めてしまうと、また声が聞こえそうだった。自分の体内から望まれぬ子供が話しかけてきそうだった。
助けてください、と彼は言わない。昔は良く言ったものだったが。彼は昔を懐かしむ。今では、助けを呼び求めた時に、手を伸ばしてくれる相手はいない。
走り続けても、そんな人間には誰にも会えない。かといって、障害物があるわけでもない。
狂気に愛でられた色が、狂気に愛でられた音が、狂気に愛されざるを得なかった者達だけが生き残った。
だからここには何もない。何もないはずなのに、彼は見つけた。
堅固な建物。黒ずくめの制服を着た人間一人が門扉に立っている。
彼は立ちすくんだ。彼を悩ます歌も声も聞こえなくなっていた。一種の聖域のような厳かな沈黙が流れる。
ここは
何処ですか?と言おうとしたが、声がかすれて何も言えなかった。しかし、
ここは裁判所。
門番らしき一人が答えた。落ち着いた声。静かな微笑。聞いたことがある、と糸色望は思う。そう、彼はこの少女の声も聞いたことがある。見たくない。見たくない。だけれども、彼女から、この場から離れることはできなかった。そんな糸色望のことを彼女は気にしない。あくまでも事務的な静かな声。この声を知っている。彼は声が出ない。もしも彼女が知っている少女であるならば、彼女は包帯を顔に。彼女は気にせず、続ける。
ここは闇の裁判が行われる場所なの。
顔を上げると、そこには彼の知ってる少女がいた。
そう彼に告げた少女は喪われた歌を歌う。
それは正気を喪った少女達への鎮魂歌。
禁じられた過去のメロディー。
トロイメライ
糸色先生。
彼の後ろから彼を呼ぶ静かな甘ったるい声がした。糸色望はその声に身震いする。
振り向くまいと彼は固く思ったが、その意思を「甘ったるい声」は女性特有の敏感さで感じ取り、更に誘惑するかのように艶かしく呼んだ。かれは、溜息をつく。これは日常茶飯事のことで、彼はこうやって「声」が彼を発狂したくなるまで困らせることを良く良く良く知っていた。
だから、糸色望は声のするほうへ振り向く。
先生。よかった。気付いていらしたんですね。
声の主はまだ女性として成熟していない顔つきをしていた。長い髪を丁寧に梳かしつけ、可愛らしいワンピースをみにまとい、彼に笑顔を向けている。
糸色望はいつもと同じように怖いと思った。彼女の様子はとても可憐な女子学生の姿そのものだというのに、彼女の声は警戒心を煽るほどに恐怖を感じさせるほどに妖艶すぎた。
先生。ねえ。宇宙の真理を知りたくはありませんか?
私は、夢で見たんです、とキメ細やかな白い肌を連想させる声は続ける。彼は耳を閉ざそうとする。真理など知りたくない。ましてや、自分が生きていても仕方のないこの宇宙のことなど、嘘のひとつだって必要じゃない。
だが、耳を塞ぐと容赦なく別の少女の声が耳に響く。
先程の声とは違って、その少女の声は下腹部から聴こえてくる気がした。
ある神は言いました。
真実が先生のことを助けるだろうと。
先生はそれを嘘だと仰るんですね。素敵です。素晴らしいです。私、あの神には飽々していましたから。新しい神様を私達は大切にしましょうね。
ほら、お腹を優しく触って下さい。鼓動が伝わるでしょう?この子が私と先生の
違う!!
糸色望は絶叫する。
両手を乱暴に振り回し、あらん限りの力で走る。
怖い、怖い、怖い。
トロイメライが静かに流れる中、ただ糸色望は喚きながら走り抜ける。トロイメライが聴こえない、どこか遠くへ。自分の教え子が解明してしまった歌を否定するために、どこか遠くへ。
糸色コードが解明したトロイメライは哀しい物語を記録していた。
決して忘れないように歌にした。それは希望を繋ぐためだった。
決して分からないように暗号にした。それは絶望を繋ぐためだった。
出逢ってはいけない者たちが出会い、そして、新しい真実が花開いてしまったから、悲劇はまた繰り返される。
人はみんな神の子だから。
少女は喪われた歌を歌う。
人はみんな神の子。
狂気に見出された死神の子供。
彼は走る。どこまでも。走らなくてはいけないから走ろうとする。走る足を止めてしまうと、また声が聞こえそうだった。自分の体内から望まれぬ子供が話しかけてきそうだった。
助けてください、と彼は言わない。昔は良く言ったものだったが。彼は昔を懐かしむ。今では、助けを呼び求めた時に、手を伸ばしてくれる相手はいない。
走り続けても、そんな人間には誰にも会えない。かといって、障害物があるわけでもない。
狂気に愛でられた色が、狂気に愛でられた音が、狂気に愛されざるを得なかった者達だけが生き残った。
だからここには何もない。何もないはずなのに、彼は見つけた。
堅固な建物。黒ずくめの制服を着た人間一人が門扉に立っている。
彼は立ちすくんだ。彼を悩ます歌も声も聞こえなくなっていた。一種の聖域のような厳かな沈黙が流れる。
ここは
何処ですか?と言おうとしたが、声がかすれて何も言えなかった。しかし、
ここは裁判所。
門番らしき一人が答えた。落ち着いた声。静かな微笑。聞いたことがある、と糸色望は思う。そう、彼はこの少女の声も聞いたことがある。見たくない。見たくない。だけれども、彼女から、この場から離れることはできなかった。そんな糸色望のことを彼女は気にしない。あくまでも事務的な静かな声。この声を知っている。彼は声が出ない。もしも彼女が知っている少女であるならば、彼女は包帯を顔に。彼女は気にせず、続ける。
ここは闇の裁判が行われる場所なの。
顔を上げると、そこには彼の知ってる少女がいた。
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